映画『ドリーム』を見てきた

※注: ネタバレです

久々の金曜レイトショー。1960年代アメリカ、NASAの宇宙開発の裏に、差別に負けずに頑張った有能な黒人女性がいた、という実話に基づくドラマ。ガチすぎるリケジョ(というかリケママ)達が自力で地位を得るサクセスストーリーが、ファッショナブルな映像と音楽で軽やかに描かれています。

原題は「Hidden Figures」と言い、それを「ドリーム 私たちのアポロ計画」と訳したセンスが、ちょっと問題視されてるそうな。確かに、数学や工学を武器に戦う頭脳派達をドリームの一言で片付けるのは少しざっくりしすぎかも。しかもアポロ計画関係ないし(そのひとつ前の有人飛行の話なんですね)。直訳すると「隠された数字or人物」ってことで、NASAの隠し子みたいな意味になりかねないですが、見終わった印象だと「戦の陰に女あり」って感じでした。しかし、邦題って必要ですかね。日本人もだんだん英語慣れしてきてると思うんですけど。ダブルミーニングを捉えきれずに、結構損してる映画が多い気がします。

肝心の中身ですが、テーマだけだとお説教くさくなりそうな話を、テンポがよく、重くなくまとめているところがいいところだなと思いました。所々都合のよすぎる展開もあるし、うまくいきすぎなんじゃないの、と思ったりしましたが、史実に基づいているというバックグラウンドで許せる範囲かなぁ。最後、宇宙飛行士に検算を指名されたあたりは、ちょっと出来すぎな気もしますが。サクセスストーリーとしての気持ちよさはあります。

また、他の映画評にも書かれていましたが、主演・助演の3人がタフで身軽なのもよかった。たぶん、実際に黒人が権利を獲得していく課程というのはもっと地を這うようなもので、血と汗の滲むものであったはずです。同時に、働くお母さんの毎日はもっと雑事に追われ、精神的余裕のないものだと思います。もっとひどい出来事、傷つくことがあるのかも…と構えていたのですが、そうはならない。それは映画の演出だけでなく、彼女達が恵まれた環境にあるからです。有色人種として差別を受けながらも、その能力を見いだされて教育を受け、仕事にありつき、制限の中でも成果を出しているという、極めてピラミッドの頂点に近い存在だからです。加えて、これは史実なのかどうか判りませんが、夫や母の理解があり、家庭を省みないで仕事に集中できる環境だった。だから、この話は単に人種差別を覆すだけでなく、高学歴ハイスペック女性が、いかに能力に見あった地位を得るか、というピラミッドのてっぺん付近で夢を叶える話といえます。夫と子どもがいるだけで満足せず、単に働くだけでも満足せず、自分の能力に見あった地位を求めるというのはかなり貪欲な話で、その貪欲さを支えているのが、自分が優秀であるという自負です。加えて、優秀な自分が前例にならなければいけないという義務感です。だから、お洒落をするし(パールは買えないけど)、意見を言うし、ことあるごとに自分の存在を主張します。女としても社会人としても正しく貪欲で、その貪欲さで勝ち取った地位は、後進に大いに役立つものです。草の根の差別撤廃運動も大事だけど、能力で差別を覆していくのはやっぱり痛快。ピラミッドの頂点だからこそ、白人男性の差別意識に与えた影響も大きかったはずです。賢いっていうのはかっこいいってことなんだなぁと、素直に思えます。

さて、私にそんな義務はないと思っていたけど、安穏と働いているだけで満足してしまっているのってよいのだろうか、なんて自分を振り返ってしまいました。私なんてと言いながら、緩い格好で指示された仕事をこなしていることは、保身になっても範例にはならない。世の働く女性陣は、自分の働きぶりが他の女性の働きやすさとキャリアを支えているのだという自負を、ちょっぴり、持ってもいいかもしれません。もちろん、緩い働き方を体現してるんだってことならそれも反対しませんけど。

最後に。劇中で主人公がハイヒールで駆け回っているんですが、あれはどこのブランドだろう?あんなに走れるハイヒール、私も欲しい。仕事を言い訳にせずお洒落をせねばなぁとも、思わされたのでした。