「ファントム・スレッド」を観てきた

ダニエル・デイ=ルイス、俳優やめるってよ、でも話題になってる映画です。ネタバレです。

一言でいうと、独身貴族の超完璧主義者のデザイナー(ただし極度のマザコン)が、若い恋人とのすったもんだの末にその手に落ちる、というような話です。と、私は解釈しました。たぶんこれ、アルマの勝利ってことで良いんだよねと。

ダニエル・デイ=ルイスはこの映画を撮ってる最中にものすごく悲しい気持ちになって、俳優を引退することにしたんだそうです。でも素直に悲しい話ではない。母の面影を追ってドレスに依存するレイノルズと、自分の体型を認めてくれたレイノルズに依存するアルマは、ドレスを介してしか繋がっておらず、同じものを見ているようでまったく噛み合わない。いくらドレスを作っても母には会えないように、いくら体を差し出してもマネキンとしか思われないように、2人が何を捧げても欲しいものは手にはいらない。だから、もっと依存する。お互いの存在も、無くてはならないものになる。でも、人として向き合いたいアルマにとって、自分を見ないレイノルズは昼間の亡霊のようで、一方、レイノルズにとってアルマは日常を狂わせる凶器のようなもの。母の影を追い払うように得た妻だけれど、夢の中の母ではないから、自分の都合通りには動かない。音を立ててものを食べて、ダンスパーティーに行きたがる。パーティに行った妻を探しにいくシーンなんて本来はラブストーリーの真骨頂というか、仲直りフラグみたいなもんなのに、レイノルズにとっては日常を狂わせる悪夢のように描かれる。対するアルマも腕を組んで徹底攻勢の構え。アルマだってこの時すでに亡霊のようなものなのだ。ベルギーの王女への嫉妬(王女自身というより、その体への、と言ってもいいかもしれない)から、レイノルズに死なない毒キノコを盛った時から、彼への想いだけで生きている。体はもうとっくに明け渡した。残ったのは心だけ。

ねじれて、ねじれて、もう直接対決しかないところまで追い詰められた2人の最後のシーンが凄まじい。キノコを刻む妻の様子から、これは盛られてんなと気づく夫。夫の嫌いなバターをたっぷり入れる妻。キノコを炒め、卵を加えて、バターをもうひとさじ。むせ返るバターの香りに鼻を覆う夫。笑顔で差し出す妻。その顔を凝視しながら、いっそ挑戦的にキノコオムレツを食べ、噛みしめてみせる夫。あなたは弱ってる方がいい、と微笑む妻。もう首まで浸かってる沼に、頭の先まで浸かってみせた夫に、笑顔で一緒に飛び込んでみせる妻、と言ったところ。倒れる前にキスをねだる夫の台詞は敗北宣言。と同時に、妻を縛る呪文。

このどうにもならない2人の関係を指して悲しい、というなら、確かに悲しい。ひとりの天才が壊れて、ひとりの女性が壊れる。そのきっかけが、愛なのかどうかもよく分からない。

しかし、このレイノルズが格好良くて、ものすごく人として駄目。恋人としては恐ろしくおススメできない。でも格好いい。60歳くらいなんだが。そしてドレスはもちろん、映像も音楽も非常に端正で美しいので、結局、う、美しさは正義!という気持ちになり、なんだか2人の関係が究極の愛っぽい気がしてくる。これは結構、トンマナの勝利ではないかと思いました。

ところで、おとぎ話のお姫様はその美しさで王子様のキスを得るのに、王子様は美女と野獣とか、カエルの王子様とか、妙な格好で同情?を集めることが多い、気がする。これは、男は見た目ではないよ、という教訓を我々に授けてくれているのか、はたまたやばい奴も付き合ってみれば運命の王子様かもよ、ということを唆しているのか。キスをして満足げに寄り添う2人を観ながら、うーん、まあ、どっちもどっちだな、と思いました。

ともあれ、非常に面白くて、痺れる映画でした。もうすぐ終わりそうですが、おススメです。

 

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